選 者
平田俊子(詩人/『読売新聞』こどもの詩 選者)
田中拓也(歌人/『心の花』編集委員)
寺井谷子(俳人/『自鳴鐘』主宰、現代俳句協会副会長)
江畑哲男(川柳作家/東葛川柳会 代表、全日本川柳協会副理事長)
募集期間
2020年3月17日(火)~2021年1月31日(日)
応募総数
4,626点(詩部門:391点、短歌部門:1,354点、俳句部門:905点、川柳部門:1,976点)
応募データ詳細(PDF 253KB)
入選作品
※年齢・学校・学年は作品応募当時のもの。
※特別賞は小学生~高校生の作品から選出。通信制、定時制なども含めることとした。
詩
最優秀 | 佐藤秀哉(埼玉県加須市/20歳) |
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「配達は続く」(PDF 147KB) | |
優秀 | 沢本岸雄(愛知県愛西市/79歳) |
「復活ブルース」(PDF 161KB) | |
優秀 | カコイシンン(東京都渋谷区/19歳) |
「あさ」(PDF 147KB) | |
優秀 | 櫻木れい(宮城県仙台市/57歳) |
「敗北」(PDF 164KB) | |
特別 | 霖投哀良(神奈川県相模原市/25歳/厚木清南高校2年(通信制)) |
「蛍石」(PDF 164KB) | |
特別 | 彩(宮城県仙台市/18歳/仙台第二高校3年) |
「十八、泡沫」(PDF 146KB) | |
特別 | 渡邉美愛(愛知県名古屋市/16歳/旭丘高校1年) |
「屋上に居た」(PDF 160KB) |
選評:平田俊子
難しいテーマですが、いいなと思う作品がたくさんありました。七編しか選べないのが残念でした。
最優秀作品の「配達は続く」は、新聞購読者数の減少という問題を背景に書かれています。冒頭の三行で作品の世界にすっと引き込まれました。厳しい現実に直面しながら、黙々と折り込み作業を続ける「俺」。自分の力では問題を解決できないことの無念さ、もどかしさ。時代や社会に対する複雑な思いがひりひりと伝わってくる作品だと思いました。
短歌
最優秀 | あんのくるみ(埼玉県さいたま市) |
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敗北の夏にうつむく少年を運動靴の泥が支える | |
優秀 | 吉田聖地(神奈川県横浜市/61歳) |
なにもかも海にとられたあの日ほど星のきれいな夜はなかった | |
優秀 | 佐々木清志(岩手県北上市/61歳) |
敗軍の殿めいて放蕩の兄の遺品を整理しており | |
優秀 | 岡部晋一(神奈川県横浜市/82歳) |
祖父の背の戦傷洗う子供たち犠牲の上に平和あること | |
特別 | とも(徳島県阿波市/17歳/脇町高校2年) |
何回も試合に勝った記憶より心に残る一回の敗北 | |
特別 | 小原夢加(沖縄県那覇市/17歳/那覇西高校3年) |
絵の世界今日も私は描き出す無念の想い白紙にのせて | |
特別 | 片山仁一朗(埼玉県坂戸市/15歳/坂戸ろう学園中学部3年) |
友達を感情だけで傷つけて部屋の時計は逆回りなり |
選評:田中拓也
「敗北の夏」の少年の一瞬の姿を見事に描写した一首。「少年」は何に敗れたのだろう。野球、サッカー、陸上…。競技種目は何でもよい。むしろ競技名を明示していない点が作品に広がりを与えている。そして、敗れた瞬間の「少年」の言葉にできない想いを受け止めるかのような「運動靴の泥」。ここでの「泥」は作品の世界観を象徴する表現となっている。やがて「泥」は固まり、「少年」を支える人生の糧となるのだろう。
俳句
最優秀 | のんちゃん(東京都町田市/77歳) |
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競泳に負けて静かに水を出る | |
優秀 | 石の森市朗(宮城県石巻市/77歳) |
挫折とは明日生きること麦こがし | |
優秀 | 梅雨うまれ(埼玉県川口市/31歳) |
不合格母の電話の静かさよ | |
優秀 | 落つ実(兵庫県宍粟市/43歳) |
炎昼や俺は敬遠したくない | |
特別 | 阿部宇唯(岩手県北上市/10歳/口内小学校4年) |
まけたけど運動会は楽しい日 | |
特別 | 高橋 咲(岩手県奥州市/17歳/水沢高校2年) |
布団の孤独アフターピル飲み込む | |
特別 | 渡邉美愛(愛知県名古屋市/16歳/旭丘高校1年) |
弱音ぽろぽろ虹だけが立っていた |
選評:寺井谷子
「負ける」「敗れる」「挫折」…今回寄せられた作品群の特色は、それぞれの傷跡から生まれたものと言えようか。小さくても深く、忘れていたのに鮮やかに句に再生された傷。そのような中
まけたけど運動会は楽しい日
一句に、選句中何度も立ち戻った。多くの苦い記憶を重ねながら人は育ってゆくのだという確認は、その何倍もの、あたたかな日差しややさしい風を内包していた。
川柳
最優秀 | しまもと慶之介(熊本県熊本市/81歳) |
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青春の樺美智子は生きている | |
優秀 | 五嶋菜月(岡山県岡山市/17歳/瀬戸南高校2年) |
花火のようにちった二〇二〇 | |
優秀 | 上原 稔(東京都八王子市/77歳) |
晩年は自慢話になる挫折 | |
優秀 | 宇太(三重県四日市市/23歳) |
お片付け大人になってもできません | |
特別 | 添田夏生(岡山県岡山市/17歳/瀬戸南高校2年) |
ありがとう良い経験になりました | |
特別 | ドラゴンヘッドスネークテール(愛知県名古屋市/15歳/津賀田中学校3年) |
練習であんなにうまくいったのに | |
特別 | 荒野行動(大阪府大阪市/12歳/大阪星光学院中学校1年) |
男子校生徒はみんな女子にうえ |
選評:江畑哲男
最優秀作品に「青春の樺美智子は生きている」を推す。内容もリズムも正調で品格があり、お見事である。自身の青春時代に思いを馳せた、今回のテーマにもぴったりの秀作だった。もしかしたら、後世に残る名句になるかも知れぬ。それほどの完成度である。
一方、「花火のようにちった二〇二〇」の句は最後まで気になった。聞けば、作者は高校二年生とか。こちらは混沌を秘めた、未完成の魅力あふれる作。今次コロナ下ならではの一句だ。事情が許せば、準賞に位置づけたいほどのインパクトがあった。