三村純也『一(はじめ)』(2018年9月/角川文化振興財団)

著者 三村純也
タイトル ―(はじめ)
出版年月/出版社 2018年9月/角川文化振興財団 受賞回[年] 34回[2019年]
分野 俳句部門 分類 作品

[略歴]
  一九五三年、大阪府生まれ。一九七二年『山茶花』入会、下村非文に師事。その紹介により、清崎敏郎、稲畑汀子の指導を併せ受ける。一九九七年『山茶花』後継主宰。二〇〇三年第三句集『常行』で俳人協会新人賞受賞。俳人協会評議員・虚子記念文学館理事。大阪芸術大学教授。

[受賞のことば]
  季題と十七音という定型でしか表現できないものを、自分なりに模索し続けて、もう半世紀になりました。もとより俳句の世界は広く、その内容はさまざまですが、私には「花鳥諷詠」しかありませんでした。中でも民俗、西の文化に根ざした俳句を追い求めることが、自分の身に沿うように感じ始めた矢先に、受賞のお知らせをいただきました。間違ってはいなかったという自信を深めるとともに、俳句の持つ様式美、伝統美というものを再認識致しました。選考の先生方に、心より厚く御礼申し上げます。

 
[作品抄出]

噎せてなほ香煙を浴び初不動

虚子五十回忌正法ここにあり

圧しかかり来る大滝を仰ぎけり

蓮は枯れ睡蓮は跡形もなし

ウヰスキーぐびと傾け鳴雪忌

なほ奧の花の朧へ踏み入らむ

顔を知るのみの夜釣の仲間かな

大の字に何とかなつて大文字草

コスモスに不思議なくらゐ風なき日

減りしともなく減つてゆくごまめかな

樹氷林月の潜んでをりにけり

吉良役の人も参りて大石忌

かげろふのけふのことさへとほくなる

舂いてなほ日のまぶし練供養

端居してどの新聞も記事同じ

もつ煮屋の二階が自宅冬日濃し

やはらかく水暮れてゆくえごの花

くノ一の密書なるべし落し文

抜けるほど足がだるくて水中り

露草や藪のどこかに水鳴りて

一つまみ塩を添へあり十夜粥

数へ日を数へ直して慌てけり

動物園前といふ駅あたたかし

灘の酒きりりと辛き端午かな

湖国とは山国にして鳥渡る

二日灸据ゑて代々能役者

春障子中途半端に開けてあり

カーネーション妣にはやはり赤似合ふ

水澄めば四囲の山澄みステ女の忌

目の前の花まなうらの花明り

蜃気楼出づべく風の凪ぎにけり

さくらんぼ一つ多いだの少ないだの

鱧食ふや食道楽の血を享けて

蝮酒飲むためにまづ酔ひにけり

注ぐたびに動くを怖れ蝮酒

(掲載作選出・星野高士)

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