著者 | 前登志夫 | ||
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タイトル | 樹下集 | ||
出版年月/出版社 | 1987年10月/小澤書店 | 受賞回[年] | 3回[1988年] |
分野 | 短歌部門 | 分類 | 作品 |
[略歴]
大正十五年一月一日、奈良県生れ。同志社大中退。「ヤママユ」主宰。昭和五十三年『縄文紀』で第十二回迢空賞受賞。主な作品に『子午線の繭』『前登志夫歌集』がある。現代歌人協会会員。
[受賞のことば]
ことしの山家の桜はまだ咲かない。
吉野山さくらが枝に雪散りて花おそげなる年にもあるかな
nbsp; 『山家集』
西行の歌をくちずさみながら、裏山の山桜の梢を見上げている。
花よりも先に、山住みの貧しいことばが祝福されたのを、春の樹々や岩や水に告げよう。宮沢賢治の土地で賞をいただけるのもうれしい。
ありがとうございました。
[作品抄出]
つつしみて
北の海に立秋の日の雨ふりてたぶの
吾亦紅そのいろふかし
たゆみなく虚空をにぎりしむるかな歌詠むひと
火の國の阿蘇の山原霜枯るるひびきのなかにわれは目瞑る
これやこの外輪山の天高く聳えし
われ
草萌えろ、木の芽も萌えろ、すんすんと春あけぼのの摩羅のさやけさ
脅えやすき春の
汗あえて草薙ぐ季節いたれるや
脚太きわれの
あはれあはれをみなの撞ける春の鐘霧流るれば
不安と題し子の描きたるわが顏の
むらぎもの心をとりてかなたゆくしらさぎありき冬のひかりに
生きていまいのちかなしむ何ならむあられ聽くべし鳥獸蟲魚
山のまに
山霧はいづこの谿に湧くならむ斧の柄朽ちて翁さぶるも
大峯の
いしきだを花舞ひあがる春の日に
吉野川を溯る
河ふたつここにまじはる靜けさを
山霧のいくたび湧きてかくるらむ
つひの日に思ひ出づべしこともなく父死なしめてさくら咲きしを
ちかぢかとかへり來ませる亡き父と茸の山の
谷こめるゆふべの靄におりてゆくむささびの
韻律のはるけきひびき踏む山にいかなる老は來らむとする
山深くかくれたまひし神すらや涯の
槇山のこぬれをつたふ日輪は
たちまちに白くなりたる杉山を
『日本靈異記』
葛城の
いづれの
億萬の
(掲載作選出=馬場あき子)