| 著者 | 中村和弘 | ||
|---|---|---|---|
| タイトル | 荊棘 | ||
| 出版年月/出版社 | 2024年11月/ふらんす堂 | 受賞回[年] | 40回[2025年] |
| 分野 | 俳句部門 | 分類 | 作品 |
[略歴]
一九四二年、静岡県生まれ。六一年上京、シナリオ、広告論等を学ぶ。田川飛旅子に師事し、加藤楸邨にも学ぶ。『陸』創刊より編集担当。九六年第47回現代俳句協会賞受賞。二〇〇〇年より『陸』主宰。現代俳句協会特別顧問。句集に『蠟涙』『黒船』『中村和弘句集』『東海』。ほか共著あり。
[受賞のことば]
私は田川飛旅子に師事し、飛旅子師の紹介で加藤楸邨先生にも学ぶことができた。﹁謦咳に接する﹂という言葉がある。俳句のありがたいところは句会があり、直接に師にお目にかかり、句評などを聞くことができる、まさに謦咳に接する場であった。恩師に感謝するばかりである。
句集『荊棘』は、私の第四句集で平成二十四年から令和三年までの作品より四四〇余句を自選にて収めた。ほぼ七十代の十年間の作品になる。
この度の「詩歌文学館賞」の受賞は、更に背中を押していただいた思いです。選考委員の方々に心より感謝します。
[作品抄出]
液晶の画面に透きて春の蠅
上潮の泡にまみれし浮巣かな
南太平洋の捕鯨基地のあった島
夕焼は鯨の骨の背後より
人間の影こそ荊棘夜の秋
殺処分の万羽の鶏は花芒
赤紙も遍路も来たる丸木橋
その間にも星あまた死す追儺かな
インドネシアにて
鮫撃つ銛舟より長し梯梧咲く
国後島の鱈の巨眼に礼したり
中国にて
長城の果は熱沙にまぎれおり
熊突の装束残し村消えし
隕石孔地球にあまた桜咲く
海底に熱水湧きて雛祭
舟板に蛸の吸盤乾きおり
宇宙なお膨張しつつ蚊の声す
牛の鼻輪壁に吊され盆に入る
暗黒も物として在り大旦
烏賊墨の噴射にくもり夏の月
稲雀大き一羽となりて飛ぶ
鱶吊られどどと夏潮垂らしけり
台風のまん中に垂れ自在鉤
ネパールにて
ヒマラヤを火群となせし初日かな
大凧の骨の刺りし砂丘かな
少年の胸に負鶏鎮もれり
大鯉の傷に食い込み源五郎
万象のふつと木耳濡れており
海鳥の骸のまとう夜光虫
共食の鯰眺めて昼寝せり
コロナ禍にて
蟻の巣も土竜の穴も消毒す
石の狼石の狐に祭来る
掌の現れて菊人形の髪を梳く
ランボーも月の輪熊も撃たれたり
軍手みな氷柱を生みて飯場なり
マグマ溜の上かもしれず緋桃咲く
火口湖の青き円盤鶴帰る
(掲載作選出・井上弘美)
