松崎鉄之介『 <ruby><rb>長江</rb><rp>《</rp><rt>ちょうこう</rt><rp>》</rp></ruby>』(2002年2月/角川書店)

著者 松崎鉄之介
タイトル <ruby><rb>長江</rb><rp>《</rp><rt>ちょうこう</rt><rp>》</rp></ruby>
出版年月/出版社 2002年2月/角川書店 受賞回[年] 18回[2003年]
分野 俳句部門 分類 作品

[略歴]
  一九一八年横浜生まれ。三九年大野林火に師事。「石楠」に入会。四二年度戦地詠にて石楠賞受賞。四七年シベリアより復員。「濱」に同人として参加。八二年「濱」を継承主宰。八二年『信篤き国』で俳人協会賞。九三年より九年間㈳俳人協会会長を勤む。現在顧問。句集『歩行者』『鉄線』『玄奘の道』『巴山夜雨』など。

[受賞のことば]
  句集『長江』は私の第六句集である。大野林火に師事した頃、「詩は驚きであり、発見である」と教えられ、また、「俳句は己の内から発するものである」と口癖のように云われて深く肝に銘じている。新らしさを求めるには個を豊かにする必要がある。知ると知らぬとでは物の見方が全く異なってくる。何でも知ろうとする好奇心はまだ衰えていない。中国の旅も十七回行なっているが、まだ陶淵明の故郷には行っていない。相馬野馬追祭を六度詠ったが、まだ詠い残しがある。

  
[作品抄出]

梯田の畦咲き登る菫かな

千仞の谷底を牛耕せり

白帝城彩雲のごと桐の花

三峡すぎ千里同風花菜の香

驢馬に乗る子に長江の日永かな

長江の五里一湍の霞みけり

西の方秦嶺ありて朱鷺の道

秦嶺の夜寒声なく越えにけり

天高しみな仰ぎ見る旅人木

おだやかな漓江下りに冬瓜汁

野馬追の天地五行の吹流し

野馬追へ具足着け合ふ兄弟

野馬懸の土手の涼風伴へり

野馬追の相馬中村通し注連

小さき町のその町だけの花火かな

野馬追の武者と日焼を共にせり

野馬追武者七騎出陣の家森閑

野馬追を宇多・北郷と追ひにけり

野馬追の行列町を貫けり

鞍馬道またたびの花頭上にせり

唐糸草見しより旅の華やげり

どの毬も虫の遊べり花八ツ手

惟然の墓にこにこにこと霜解くる

白菜漬折り畳みたる如きかな

まだ生の力の強し薺爪

菜飯屋の三日の昼を賑へり

墓に汗林火十七回忌かな

阿波踊のぞき郡上で踊りけり

震災忌五歳の吾の跣足かな

耄碌の戦友会のあたたかし

(掲載作選出・岡本 眸)

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