大久保白村「地球を丸く詠む」

著者 大久保白村
タイトル 地球を丸く詠む
出版年月/出版社 - 受賞回[年] 28回[2013年]
分野 俳句部門 分類 選評

  有馬朗人句集「流轉」は第九句集である。氏の最近の句集では「不稀」「分光」は国内での作品をまとめ「鵬翼」は海外での作品のみでまとめている。今回はその後の二〇〇六年から二〇一〇年までの国内外の作品より四三六句を収めている。
「流轉」が多くの句集のなかから最終選考に残り、さらに選考会席上でも選び抜かれたのは国内での幅広い活躍に加えて海外の多くの国に度々出かけて作品を残された精力的な作句力に驚嘆する点があったことであろう。
 選考会が開かれた三月七日も中国に出張され北京空港に近付いているところであったという。主宰誌「天為」の三月号にはアメリカに出張しアメリカ俳句協会や有季定型ハイクソサエティとの交流に努めている様子がレポートされていた。その活躍ぶりは「天為」主宰とか国際俳句交流協会会長という狭い世界にとどまらず俳句を通して世界の平和や親善に尽力をされている。俳壇における貴重な存在と考えられる。その多忙な生活のなかから産み出された作品はまさに地球の香りがする。
  母音よく響く五月や地中海
  ヨルダンの岸の焚火の濃かりけり
  水を打ち凱旋門を鎮めけり
  揚雲雀ガリア戦記の山河かな
  漢の世の陶の小犬の夜寒かな
 まさに地球を丸く飛び回り、行く先々の風土の特徴や歴史を踏まえ、日本の季節にとらわれずに季題を駆使して一句を自由に仕上げている。物理学者としても著名なドクトル・アリマはアキトで海外に通用する俳人でもあるようだ。その俳人アキトは日本の国土を詠むときは朗人になる。しかし、その眼は日本も地球の一部としてとらえ大らかに詠いあげて格調も高く詩情にも富む。
  天を呼ぶ鶴初声の白さかな
  大いなる富士の闇より草蜉蝣
  胸白く秋の燕となりにけり
  唐紙を開けば月の真葛原
  夢殿に夢見て蝶の凍てにけり
 その朗人の世界に微笑ましいような特徴が一つある。それは上質の俳諧味である。
  投網打ち墨絵の山を捕へけり
 中国桂林でのこの作品のように海外詠にも見られるが国内詠では特に顕著である。日本も地球の一部のような活躍ぶりではあるが、ふと浮かぶ俳句には祖国にいる心のゆとりが作品にも反映するのだろうか。
  こんと鳴く障子の影絵納戸仏
  佐保姫を一夜泊めたる峠の灯
  天下国家論じ昼寝のホームレス
  きつつきのこつと打つ我が頭蓋骨
  汝も又神の子なるぞ蠅生まる
 朗人は「あとがき」にて「八十二歳になったが、まだ第九句集とは我れながらのんびりしていると、亀の如き歩みの遅さに驚いている」と記している。受賞を機にさらなる有馬朗人の世界を拡げ丸い地球を丸く使い俳句を世界に知らせるご活躍を期待したい。

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