星野高士『渾沌』(2022年8月/深夜叢書社)

著者 星野高士
タイトル 渾沌
出版年月/出版社 2022年8月/深夜叢書社 受賞回[年] 38回[2023年]
分野 俳句部門 分類 作品

[略歴]
  一九五二年、神奈川県鎌倉市生まれ。俳誌『玉藻』主宰。『ホトトギス』同人。鎌倉虚子立子記念館館長。日本伝統俳句協会常務理事。国際俳句協会理事。俳句ユネスコ無形文化遺産登録推進協議会理事。詩歌文学館賞選考委員(二○一九~二一年)。神奈川新聞俳壇選者。句集に『残響』他多数。著書に『星野立子』などがある。

[受賞のことば]
  先日虚子と立子の墓参に行って来た。その際この大きな賞を賜わったことを墓前に報告することが一番の目的でもあった。もち論墓は無言だが、心なしか喜んでいるようなものを感じた。また私と同等に喜んでくれている母の星野椿も二月で九十三歳。多作多捨を心掛け乍ら歩んで来たが、この受賞で目に見えない力を得て更に新しい自分との闘いの俳句生活が出来ることは本当に嬉しいことである。卒業も引退もないのが俳句。この機を励みとして、前へ進んで行くのみである。選考委員各関係者に心から御礼を申し上げます。

[作品抄出]

いちどきに夕べの来たる松手入

古井戸のまた覗かれて神の留守

寒禽の枝を選ばぬ日和かな

席埋まる忘年会の終はる頃

一天に奈落あるごと朴の花

雨一夜風の一夜や竹夫人

敬老の日の空席に置く鞄

海の幸あるだけ並べ浦祭

山寺に奥の間のあり薬喰

星を見て次の音待つ除夜の鐘

風が消す二月礼者の小さき声

ひとときといふ長さあり新茶酌む

小浅間の噴煙高く百日紅

おでん屋のもつとも隅の席をとり

さくら鍋噓と知りつつ聞く話

初夢を見たくて枕新しく

遅れ着く人雪の香を纏ひつつ

鈍色の空は似合はず花菖蒲

誰も居ぬ岐阜提灯の一間あり

うしろから声かけられて花八ッ手

雪といふ予報当らず下萌ゆる

さらさらと夕ベが過ぎぬ新豆腐

子規の忌の上野の山のかたちかな

甘味屋の端から混みて針供養

さくらんぼ買つて雨降りさうな街

全集に足りぬ一冊黴の宿

晩涼やバス待つときも山仰ぐ

虫売の虫の音痩せてゆくばかり

ハロウィンの直前和光時計台

成人の日の辛口のカレー食ぶ

草餅や予定なき日も見る手帳

初秋やコピー用紙を継ぎ足して

さ男鹿の一歩のあとは数十歩

(掲載作選出・三村純也)

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