著者 | 大峯あきら | ||
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タイトル | 群生海 ぐんじょうかい | ||
出版年月/出版社 | 2010年9月/ふらんす堂 | 受賞回[年] | 26回[2011年] |
分野 | 俳句部門 | 分類 | 作品 |
[略歴]
一九二九年奈良県生まれ。京都大学文学部(哲学)卒。高浜虚子に師事。「晨」代表同人。毎日俳壇選者。俳人協会顧問。大阪大学名誉教授。句集に『宇宙塵』(第42回俳人協会賞)『群生海』(第52回毎日芸術賞)。著書に『フィヒテ研究』『親鸞のコスモロジー』『君自身に還れ』(池田晶子との共著)。
[受賞のことば]
俳句の言葉というものは、人間が季節の花や鳥について、あれこれ述べるような言葉ではなく、花や鳥が自分たちについて語っている言葉を聴いた時に人間に生まれて来る言葉であると思う。季節の詩においては、われわれは決して宇宙の中心ではない。すべての物たちと共に、一つの宇宙線によって貫かれているのである。
こんな思いが、いつのまにか私をとりこにしてしまった。あまり現代向きとは思えない私の句集を推薦してくださった先生方に厚く御礼申しあげたい。
[作品抄出]
刈草の流れて早き遠野かな
かの葛の峠を上る月あらん
越前に御文は古りぬ月の秋
雪囲すみたる棒の余りけり
はくれんのすぐ裏にある夕日かな
蟻の道阿弥陀の前をよぎりをり
白山を大廻りして小鳥来る
どの村も木枯やんで大月夜
とめどなき落葉の中にローマあり
悼 池田晶子
今朝引きし鶴にまじりて行きたるか
まだ若きこの惑星に南瓜咲く
簀戸入れて午から子規を読むつもり
さまざまの物の中なる日向水
中京区姉小路の雪うさぎ
花の日も西に廻りしかと思ふ
門一つつぶれさうなる暮春かな
そのかみの隠郡田水沸く
村ごとの夕蜩の声ちがふ
大露の日ののぼりたる筑紫かな
鷹渡る空と思ひぬきのふより
御七夜の吉野は寒くなるばかり
青空のどこも深くて年つまる
凍る夜の星晨めぐる音すなり
種芋や室生の家のよき日向
春ごとの畦を抱かれて来る子かな
麦熟れて信長祭近づくか
暗き間のいくつもありて土用干
夕影をいつしかまとひ蟻の道
夏の月人もをらずに上りをり
落葉降りやむとき月の出るならひ
紋付の人また通る狸罠
天津日の歩みとどまる甘茶寺
嬋姸として蝶を絶つ牡丹かな
舟道の紺もりあがる端午かな
白南風の高千穂として天に在り
(掲載作選出・宮坂静生)