橋閒石『橋閒石俳句選集』(1987年5月/沖積舎)

著者 橋閒石
タイトル 橋閒石俳句選集
出版年月/出版社 1987年5月/沖積舎 受賞回[年] 3回[1988年]
分野 俳句部門 分類 作品

[略歴]
  明治三十六年二月三日、石川県生れ。京大卒。「白燕」代表。昭和五十九年『和栲』で第十八回蛇笏賞受賞。主な作品に句集『雪』『朱明』『無刻』『風景』『荒栲』『卯』がある。現代俳句協会顧問。

[受賞のことば]
  このたびは、思いもかけず、輝かしい賞を頂くことになりまして、言い知れぬ感動を覚えています。もともと私は、ひたすら学究の道を歩んできた者ですが、同時にまた、若くして俳諧の魅力にとりつかれ、そこから自得した悟りのようなものに、絶えず心を支えられてきました。その意味でも、今日の栄誉は、私にとってこの上ない喜びです。既に高齢の身ながら、なお暫くは、いのちの火の燃えるかぎり、「俳」の正しい発展のために微力を尽す所存でおります。まことに有難うございました。

 
[作品抄出]

春雷や魚犇めける生簀舟         「雪」

荷の中に雛の声する花野かな

土を出る蟬に記憶のうすみどり      「無 刻」

荒栲や光がつつむ鴉の子         「荒 栲」

厄介ないのち遊ばす冬の蝶

木霊より軽き子を抱く冬隣        「卯」

生り余れるところ寒しや青葉木菟

凍蝶を乗せて秤の機嫌よし

わが恋の色問うなかれ夕蛙

露草に昔の素足濡らしけり

二階から降りて用なき石蕗日和

枯山を見るに枕を高くせり

耳垢も目刺のわたも花明り        「和 栲」

日輪を呑みたる蟇の動きけり

はらわたに昼顔ひらく故郷かな

瞬けば小豆こぼるる彼岸かな

冬牡丹いずれの道も遠きかな

鷺草や天の扉の閉まりし音

白葱を二三本ぬき鼔うつ

見ぬふりの仏もありぬ苔の花

昼の木菟いずこに妻を忘れしや

蝿うって背後に橋の延びるかな

賑やかに善人消えし厚氷

白桃や他力の海のひたひたと

たそがれもかわたれも百日紅かな

春の風邪ときには弥陀もひき給え     「和 栲」以後

梟の目の節穴の冬がすみ

啓蟄や雲の涯から下駄の音

冗舌の実梅をこぼしつつ量る

日暮まで一家ちらばる春の雪

(掲載作選出=飯田龍太)

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