遠山陽子『遠山陽子俳句集成』(2021年11月/素粒社)

著者 遠山陽子
タイトル 遠山陽子俳句集成
出版年月/出版社 2021年11月/素粒社 受賞回[年] 37回[2022年]
分野 俳句部門 分類 作品

[略歴]
 一九三二年十一月七日、東京市淀橋区生れ。五七年より『馬醉木』『鶴』を経て『鷹』創刊に参加、三十一年間在籍。七八年、三橋敏雄指導句会「春霜」(のちに「檣」)に参加。機関誌『檣』を編集。二〇〇一年末三橋敏雄逝去により「檣」解散。〇三年初頭、個人誌『弦』創刊、「評伝 三橋敏雄」を執筆連載。受賞は「茨城文学賞」「六人の会賞」「現代俳句協会賞」「桂信子賞」など。毎日新聞東京版「文園」選者。

[受賞のことば]
 俳句人生の締めくくりとして、後進や子孫への形見のつもりで編んだこの本が、世の多くの方々にも認めて頂けたのは望外の幸せです。波乱の人生にもうひとつドラマが加わったとの驚きでいっぱいです。こつこつと地道に積み上げてきたものに光を当ててくださった詩歌文学館賞関係の皆さまと、これまでご指導頂いた全ての方々に感謝いたします。

[作品抄出]

八十歳ただの黄蝶の来ては去る

皇帝ペンギン蹼ひらく夏は来ぬ

敬老の日なり三回飯を食ひ

地下鉄が三越に着く敗戦日

鏡中の老婆いとしやあやめぐさ

叫喚は蟻の穴より敗戦日

朝な朝な鶴の匂ひの薬のむ

秋暑し絞めそびれたる鶏を飼ひ

わが晩秋石塀折れしところから

東京の隙間隙間の冬の雨

言の葉のごと風花の舞ひて来し

右腕がすこし長くて大根干す

春ふかく脳の片寄る目覚めかな

風死せり蛇の消化器などおもひ

わが死後の本の崩るる夏の月

敗戦日順路あるけば出口かな

わが髪より白きものなし大花野

背高きまま老いたれば花野見ゆ

日の丸を嚙み一月の天袋

白髪となる糸桜くぐるたび

蝶も蜂も来よわれは腕から枯れはじむ

ゆるゆるととぐろ解く蛇わが日暮

百円眼鏡かけ百歳の春が見ゆ

牡丹崩れわれは膝からくづれけり

葬儀場最前列は冬の海

老人であることに慣れちんちろりん

謎のないわたしと老いた梟と

闇米を食べてぞ育ちせりなずな

八十八夜豆腐は水をうごかしぬ

蚊遣火に遺書を推敲することも

月に金星われは独りで米寿になる

春怒濤鶴の屍のごと崩る

鞦韆のひとゆれひとゆれ我消えゆく

果て知れぬ花の奈落やわが昭和

春濤の輪舞曲ろんどかの世の友の数

(掲載作選出・渡辺誠一郎)

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