村越化石『筒鳥』(1988年5月/濱発行所)

著者 村越化石
タイトル 筒鳥
出版年月/出版社 1988年5月/濱発行所 受賞回[年] 4回[1989年]
分野 俳句部門 分類 作品

[略歴]
  一九二二年静岡生れ。旧制中学中退後、国立療養所栗生楽泉園に入園、療養中。俳人協会会員。蛇笏賞等受賞。句集『独眼』『山国抄』
『端坐』

[受賞のことば]
  私の居る楽泉園は名湯草津の町から東南へやや離れた地に在り、入園以来ここに四十七年。生涯療養の身で現在全盲でもある私は、俳句によって救われ、周囲の自然に親しみ、心の安らぎを得ています。先師大野林火の抒情俳句を信奉、身辺の小さなおどろき、小さなよろこびも大切に詠う句作りを重ね、句歴も長いのです。近くの友、遠くの友から有難い「筒鳥」評も寄せられ幸福者です。その上にこの度、第四回詩歌文学館賞の輝かしい栄誉を授り大きな感激です。平成元年、芭蕉の「奥の細道」から三百年のゆかりの年、受賞を尊い記念に致したく思います。
 選考委員の方々、関係各位に厚く御礼申し上げる次第です。

 
[作品抄出]

世へつなぐ道のかたへに干菜あり

冬深く杖を抱きたる影法師

石現はれ土現はれて雨水かな

地にひとり跼み夕焼浄土かな

いろとして松籟を聴く春隣

根雪一枚めくれしや風光りしや

豆植ゑてゐる声二人ほかは山

朝鵙に父夕鵙に母憶へ

常闇とこやみの身を湯豆腐にあたためぬ

山の趺坐吾が趺坐雪もたびたび来る

夏始掌にのせづるものの増ゆ

見えぬ目となりしへ点る雪螢

空耳ふえ雪間もふえてゆくならむ

霞より猫の持て来し松ぼくり

筒鳥や山に居て身を山に向け

青嵐石もともども浄まれり

蟇ほども歩まず山に親しむよ

山中は雪飛ぶならひ追儺の夜

早春や遠故郷のすみれ色

水あれば水にくちづけ春惜む

おん僧もわれも盲や豆飯食ふ

夜長来る山が座りて山の国

仏の地空と平らに花野あり

山眠り火種のごとく妻が居り

まぼろしの鷹を行かしめ杖に寄る

蕗味噌や隠れ身なるも命守る

      林火忌
黄泉の師へ松虫草の霧呼んで

奥山に雪積るらし白湯うまし

初冠雪志ある山ならむ

常闇に住むも真白く障子貼り

(掲載作選出=金子兜太)

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