安藤元雄「新しい達成」

著者 安藤元雄
タイトル 新しい達成
出版年月/出版社 受賞回[年] 18回[2003年]
分野 分類 選評

  詩はもしかしたら、いま、誰ひとり予想しなかったような、思いがけない成果をあげる時期にさしかかっているのかも知れない。ただし、これまでの書き方とは違う別の発想、別の表現の仕方によって。
 ――いわゆる豊かさとはまた違う、ある種の鋭さ、もしくは現実とかかわり合う切迫感、といったものが、伝統的な書法からは予想もつかなかったような言葉のスケールの大きさを生んでいるのではあるまいか。たとえば、

  タマシイを探しあぐねて
 杏仁豆腐を前に
 生き残っている私たち

という谷川俊太郎の『minimal』の一節がそれである。この谷川の新しい詩集は、俳句への接近というあらたな契機から、言葉を極度に切り詰めて書かれているのが特徴なのだが、しかし詩集全体としてはまだ試みの段階にあるのではないかという見方から、選考会の席ではあまり深くは論じられなかった。
 白石かずこの『浮遊する母、都市』のすさまじい迫力も高く評価されたが、この詩集は残念ながら今年に入ってからの刊行で、前年末までという賞の対象期間をはずれている。
 こうして最後に残ったのが、財部鳥子の『モノクロ・クロノス』と、支倉隆子の『身空X』の二点だった。後者を強く推す意見もあった。

  裸電球にわなわなと夜の蛾がおしよせている
(森のような詩を書きたい
(暗い森のような詩を書きたい

という一節などには、型にはまりかかっているいまの詩の書き方を突き破ろうとする何かがたしかにあるのだが、それにしてはなお、語法に粗さを感じさせるところが残っていて、もうひとつ読む者に有無を言わせない説得力がほしいと思わせる。
 これに対して財部の詩集は、中国の詩人たちとの長い交流でつちかった独特の感性を、ときには短い詩行に切れ味鋭く収め、ときには粘りのある散文型にスケール大きく波打たせて、鮮やかに提示することに成功している。一見何気ない感想のように見えて、実は日常の枠を超えた別次元のもの、あえて言えば永遠に属するものを行間に浮き上がらせる。

  月の出の港から血の予感を誇って
 航空母艦が出て行く夜だ

  これはほとんど漢詩の呼吸に近い。とりとめもなくうつろうものを、この詩人はたしかにここにしるしとどめる。茫漠たる空間にさまよい出てしまったようでありながら、これまでになかった大きな器を生み出しているという意味で、この新しい達成を受賞作に選ぶことになった。