清水哲男「選評」

著者 清水哲男
タイトル 選評
出版年月/出版社 受賞回[年] 14回[1999年]
分野 分類

  諸氏へのアンケート回答なども考慮に入れて、最終選考のテーブルに上ったのは、次の八冊である(順不同)。
 鈴木漠『変容』(編集工房ノア)、倉田比羽子『カーニバル』(書肆山田)、藤井貞和『「静かの海」石、その韻き』(思潮社)、原子朗『黙契』(花神社)、平林敏彦『月あかりの村で』(青猫座)、三井葉子『草のような文字』(深夜叢書社)、花田英三『島』(夢人館)、朝倉勇『田園スケッチ』(メディア・ファクトリー)。
 冊数こそ多かったが、本年度はやや低調気味で、各委員ともに徹底して推したいという一冊はなかった。したがって、早い段階で、三委員が消極的なものから順次消去していくという展開になり、残ったのが三井、花田、朝倉氏の三冊。選考時間の大半が、この三冊をめぐっての議論に費やされた。
 しかし、残念なことに、三冊をめぐっても全委員そろっての積極的な支持の弁はなく、しばらくは三すくみのまま、議論は平行線をたどらざるを得ない状態がつづいた。そのうちに一委員から「受賞作なしにしてはどうか」という発言もあり、それに傾きかける雰囲気にもなったが、「なし」というほどに低レベルでもないということで、なお話し合いがつづいた。
 再度の話し合いの末、三井氏の受賞に決まったわけだが、決め手となったのは、作品の恣意性が他の二著よりも薄いところであった。言い換えれば、三井氏の主題が、二著に比較して、より明確であったという点だ。その意味で「前詩集に比べると格段に主題的なまとまりがある」という一委員の評価が、決定的だったとも言えるだろう。
 これからは私の考えだが、三井氏の詩の魅力は、みずからの世界を肉質化する言葉の繰り出し方にある。作者の「体温をじかに感じさせる言葉」と言ってもよい。このことを指して「いやらしい」という声も出たけれど、そのあたりがそれこそ「いやらしい」ほどに巧みな詩人である。この詩人を肯定するにせよ否定するにせよ、事はこの一点に絞られての結果であるだろう。
 私としては朝倉氏の詩集に、最も好感を覚えた。引用の恣意性を批判する委員もいて、そうしたところがなくもないけれど、現代の都会居住者の癒しを求めて、これほどまでに書き込んだ詩集は、そうザラには見当たらない。一見牧歌的にも読めるが、私にはすべてがエレジーだと思えた。それに、柔軟な言葉使いという点でも、当今なかなか右に出る詩人はいないだろう。
 花田氏も、もとより巧みな書き手だ。ただ、いくつかの詩に主題を途中で放棄しているものがあり、そこが瑕瑾となった。