後藤比奈夫『白寿』(2016年1月/ふらんす堂)

著者 後藤比奈夫
タイトル 白寿
出版年月/出版社 2016年1月/ふらんす堂 受賞回[年] 32回[2017年]
分野 俳句 分類 作品

[略歴]
  一九一七年大阪生まれ。四一年大阪帝大理学部卒。五二年父夜半に就き俳句入門、五四年『諷詠』発行兼編集人、七六年同主宰現在名誉主宰。俳人協会・日本伝統俳句協会・大阪俳人クラブ等顧問。兵庫県文化賞・神戸市文化賞・蛇笏賞・俳句四季大賞他受賞。著書五十数冊。『白寿』は第十四句集。

[受賞のことば]
   本年は三十二回目になる由ですが、北上市にこの賞が誕生致しましてから、詩歌文学館賞のことは片時も忘れたことはありませんし、又この賞を受けられた方々の消息も心を離れたことはありませんでした。それがこの度、図らずも私に順番が廻って参りましたこと、全く夢のような仕合わせと言わねばなりません。此の度の『白寿』は私にとりましてもいとしい句集でしたが、これをお選び下さいました大峯あきら岩岡中正加藤瑠璃子三先生、版元ふらんす堂山岡喜美子社長に、深く御礼申し上げます。詩歌文学館の皆様有難うございました。

 
[作品抄出]

羽子板の板が滅法固さうな

筍を寝釈迦の如く横たへて

金輪際鳴かぬと亀の擡げし首

賞でられてこその残花といふべかり

向日葵の黄には負けられぬと思ふ

底紅を慕ふ心のいつまでも

箱庭に犬ゐて兎ゐて猿は

茄子よりは真菰の馬よ乗るならば

六甲も摩耶もわが山初明り

父恋ふ子子を恋ふ父や花に黙

かく雪の日なりき二・二六の日も

丸顔の雛を見過ぎてしまひたる

忘るるよ勿忘草を貰ひても

これがその神田の生れよてふ祭

睡蓮を見てモネ思ふそれも陳腐

来し方を晒すが如く書を曝す

竹節虫はナナフシなりに涼しげに

文字摺の花が次第に渇筆に

向日葵の黄のこれでもかこれでもか

或る夜ふと父母の夢見し子蓑虫

鵺塚のほとりで吹きし瓢の笛

釣れすぎて鯊が嫌ひになりにけり

誰も詠みたきは棚田の曼珠沙華

猪垣にある人間の出入口

猪垣の中に猪垣して住める

老といふ充実にあり年明くる

かと言ひて抱負もなくて老の春

歯固や人生いよよ九十九折

大寒に入りしと胸に言うて聞かす

雨降るな傘の破れてゐる花に

破れ傘詠み命終の句としたる

腰振つてゐる孑孒といふ字かな

白寿まで来て未だ鳴く亀に会はず

(掲載作選出・岩岡中正)