大牧広『正眼』(2014年4月/東京四季出版)

著者 大牧広
タイトル 正眼
出版年月/出版社 2014年4月/東京四季出版 受賞回[年] 30回[2015年]
分野 俳句 分類 作品

[略歴]
  一九三一年東京生まれ。七〇年能村登四郎の『沖』入門。沖新人賞、沖賞受賞。八九年『港』創刊主宰。二〇〇五年『俳句界』特別賞受賞。〇九年現代俳句協会賞受賞。一五年与謝蕪村賞受賞。句集『正眼』他七冊。他にエッセイ集等六冊。現代俳句協会会員。日本ペンクラブ会員。

[受賞のことば]
  この度『正眼』により「詩歌文学館賞」を頂くことになり無上の喜びを味わっております。先師能村登四郎、林翔もこの賞を受賞しており身の引き締まる思いです。私の俳句持論はこの国の四季の移ろいをいとおしみ有限の命の証しを詠み進むことにあります。そうした思いで編んだ『正眼』が伝統ある賞を賜わったことの喜びは表現しきれません。改めて選考委員の先生方、並びに文学館の方々に厚く感謝申し上げます。

 
[作品抄出]

被災地にこの世の花火揚りけり

桐一葉運河も年をとりにけり

正眼の父の遺影に雪が降る

一生のほぼ見えてきし芋雑炊

稿継ぐや火鉢あらばと思ひゐて

よく書いて脳が疲れて天へ蝶

麨や闇へ闇へとまつりごと

栗剝くや昭和の暗部語りつつ

落鮎のために真青な空があり

秋風や征きたる駅は無人駅

ひたすらに鉄路灼けゐて晩年へ

鮟鱇鍋山河のやうに骨残る

正眼を通す梟には勝てず

エスカレーターがくりがくりと開戦日

建国日波は岸辺を蝕みて

春夕焼うしろ姿は誰も持つ

蝶生れて山は力を抜きにけり

反骨は死後に褒められ春北風

花咲きし頃や夜毎のB29

被災地にしんじつ廻るかざぐるま

蜆汁吸ふたび背骨曲りゆく

夏ひえびえいくさの好きな人が居て

葭切のかさりかさりと改憲論

この先は老残が待つ盆送り

めつむりて茅の輪くぐれど濁世なり

泥鰌鍋この街かつて焦土なり

秋風やシャッター街が終着駅

仮設住宅うづくまりゐて雲は秋

鎮魂や海へそよぎし花芒

すこしづつ壊れてゆきし秋すだれ

(掲載作選出・鍵和田秞子)