有馬朗人『流轉』(2012年11月/角川書店)

著者 有馬朗人
タイトル 流轉
出版年月/出版社 2012年11月/角川書店 受賞回[年] 28回[2013年]
分野 俳句 分類 作品

[略歴]

  一九三〇年大阪生まれ、理論物理学者、俳人。一九四六年「ホトトギス」初入選(虚子選)。一九五〇年山口青邨に入門。一九五三年「夏草」同人、「子午線」創刊に参画。一九九〇年「天為」創刊、主宰。国際俳句交流協会会長。句集『母国』、『天為』(俳人協会賞)、『分光』、『鵬翼』等。二〇一〇年文化勲章。

[受賞のことば]

  伝統ある「詩歌文学館賞」に私の句集「流轉」をお選び下さったことに、厚く感謝いたします。日本現代詩歌文学館振興会及びに選考委員の方々に厚く御礼申し上げます。私は特にこの賞をいただくことを心より喜んでいます。授賞式のある北上市の日本現代詩歌文学館の構内に、師青邨山口吉郎先生の邸宅「雑草園」が移築されています。一九五〇年東京大学鉱山学教室に訪ね入門して以来、八八年逝去される迄、先生は私にとりただ一人の師でした。「雑草園」の近くで受賞することは至上の喜びであり、師恩に深く感謝しております。

 
[作品抄出]

天を呼ぶ鶴初声の白さかな

こんと鳴く障子の影絵納戸仏

霜の花咲かせ錬金術師住む

佐保姫を一夜泊めたる峠の灯

母音よく響く五月や地中海

浮いてこぬ者もありけりういてこい

合掌が朝の挨拶蓮の花

大いなる富士の闇より草蜉蝣

胸白く秋の燕となりにけり

極月の赤門くぐるオートバイ

狐火の村へ携帯電話かな

ヨルダンの岸の焚火の濃かりけり

鷹化して青の時代のピカソの鳩

長考の後の跳躍蟇

水を打ち凱旋門を鎮めけり

霾るや大和に坐す北魏仏

天下国家論じ昼寝のホームレス

唐紙を開けば月の真葛原

きつつきのこつと打つ我が頭蓋骨

匙廻し彼の世を透かす葛湯かな

夢殿に夢見て蝶の凍てにけり

揚雲雀ガリア戦記の山河かな

風紋万里砂丘に刻み涼新た

南船北馬ここは北馬ぞ天高し

新涼や水で字を書く石畳

漢の世の陶の小犬の夜寒かな

虫売りの論語を読みてゐたりけり

城あれば必ず亡び秋の蟬

晩秋や十字架にのみある光

汝も又神の子なるぞ蠅生まる

枕辺の折鶴も引く心かな

ローマ逝きイスラムが去り春の虹

投網打ち墨絵の山を捕へけり

人も蚊も鈍れば打たれやすきかな

行く水に影濃く精霊蜻蛉かな

(掲載作選出・大久保白村)