星野麥丘人『小椿居 せうちんきよ』(2009年1月/角川書店)

著者 星野麥丘人
タイトル 小椿居 せうちんきよ
出版年月/出版社 2009年1月/角川書店 受賞回[年] 25回[2010年]
分野 俳句 分類 作品

[略歴]
  一九二五年東京府下に生まれる。四七年石田波郷に師事。波郷没後、石塚友二に師事。この間「鶴」編集及び発行を担当。八六年友二没後、「鶴」主宰を継承。句集『雨滴集』にて第36回俳人協会賞受賞。著書に『近世俳人ノオト』『石田波郷の世界』ほか。俳人協会顧問。

[受賞のことば]
  私は戦後間もないころ、縁あって俳句の道に入った者です。その時、俳句は石田波郷だぞ、と先輩俳人に言われるまま、波郷の「鶴」に投句したのが始まりです。そのまま六十余年が経ち、私は今年の三月で八十五歳を迎えました。紛れもない老俳人であります。目下、大学病院へ通院、加療中ですが、幸い作句には支障がありません。長い間作句をつづけてきたお蔭で、今日、詩歌文学館賞の受賞の栄に浴することのできましたことを、心より喜んでおります。
  ご推薦くださいました諸先生方に有難く御礼を申し上げる次第です。

  
[作品抄出]

儚々とふ枯野の人といふことか

大事ないことはそのまま蟇もまた

皆小さくなりひまはりもその一つ

ツルゲーネフ読む父の日の牛飼よ

気掛といへば気がかり蜘蛛の巣も

冬瓜を本気になつて煮てをりぬ

明日あたりどんぐり拾ふことせむか

鶏頭を詠まねばなにもはじまらず

木の実落つ待つことなにもなかりけり

ぎんなんはいただくものや待つてゐる

花八つ手私ごとはそのままに

好きやねん大根畑と葱畑

世の中のことは春来てからのこと

鞄より赤い風船いつ出さむ

春筍が二つ佳人は来ぬものか

茄子の馬母は歩いてくると思ふ

花野にて生れ変れるものならば

餅食べて妻は家出をするといふ

只歩く桜遍路といふがあり

朋友ともありて芋と蒟蒻来りけり

大根の花見て嫁に行きにけり

心平の蛙と聴けばなほのこと

黒を着て八十八夜行くところ

泰山木の花に辞儀するひとのあり

鉄砲百合坊ノ津までは遠かりき

うなぎ食ふ茂吉は茂吉吾はわれ

新松子世間のことは聞き捨てに

虫売に巡査が何を訊きをるや

扇置くわが人世もこの辺り

なにごともきのふのごとし忍冬忌

寒北斗齢いよいよ掛値なし

田螺鳴く友二の墓に詣らねば

花散つて狐は石となりにけり

大菩薩峠のほたる袋かな

奈良団扇なども遺品の中にあり

(掲載作選出・友岡子郷)