小原小原啄葉葉『平心』

著者 小原啄
タイトル 平心
出版年月/出版社 2006年5月/角川書店 受賞回[年] 22回[2007年]
分野 俳句 分類 作品

[略歴]
  一九二一年岩手県生まれ。五一年山口青邨に師事。七八年「樹氷」創刊主宰。九一年俳人協会功労賞。九七年俳人協会賞。俳人協会名誉会員。九八年岩手日報文化賞。天為同人会長。二〇〇四年俳句四季大賞。句集『滾滾』『遙遙』『永日』『平心』『自註句集・続篇』ほか。評論集『風土の詩』ほか。

[受賞のことば]
 『平心』は私の第六句集です。句集名の「平心」は袁枚の詩から採りました。袁枚は清代の清新な作風で知られる詩人で、「優れた詩は、真情のままを表現すべきで、作為的な技巧や修辞にとらわれてはならぬ」と主張した人、中国の好きな詩人の一人です。
  俳句は「私」を表現する文芸です。これからも一日一日を大事にしながら、北国に生きる人間の生き様を、謙虚に詠い続けて参りたいと希っております。
  選考委員の皆さんに、心から感謝を申し上げます。

 
[作品抄出]

蕗の葉をもて闘鶏の血を拭ふ

負鶏を毛布に包み畦帰る

麦を踏みゐしが花嫁見に駆くる

流れゆく水に音なし座禅草

南部富士裾まで晴れて羊刈る

ときをりは神の鈴鳴り苗木市

をりからの雨を称へて植樹祭

草のごと風にうねりて冷害田

川曲るあたりに蛍柱立つ

蛇捕の蛇の重さの袋負ふ

幽霊に鉦の早打ち夏芝居

戻さるる刃を白菜へ押し返す

樏を持ち寄り葬の支度かな

どんど火へ馬の草鞋を拋りたる

ひとたびは畳へならべ雛をさむ

さなぶりの帰りにも田を見回れる

鮎の宿頭上注意の階のぼる

神棚に作れる繭も搔きにけり

一斉に毛虫の反れる枝を焼く

二階まで鶏の来てゐる出水かな

転倒と見し波乗りの飛び上がる

落鮎や遠野は丸き山多し

半分は土へ沈みて種胡瓜

山ぶだう引けば古巣の寄り来る

冬菜畑麻酔の猿を引きずり来

こんもりと罠の兎へ雪積める

落石のなほも氷湖を走りけり

人はみな前みてすすみ初詣

酔ひどれのなまはげ出刃を忘れ去る

涅槃図の皺と見ゆるはみみずらし

胸押して来る一枝より剪定す

遍路杖やうやく棺に納まりぬ

あらくさの剛きも入れて夏花とす

打水のさき土玉となり転ぶ

雪渓の瘦せたるところ塔婆立つ

(掲載作選出・岡田日郎)