林翔『光年』

著者 翔
タイトル 光年
出版年月/出版社 2004年7月/ふらんす堂 受賞回[年] 20回[2005年]
分野 俳句 分類 作品

[略歴]
  一九一四年一月二四日長野に生まれ、しょうと命名される。五歳で上京。国学院大学卒。四〇年「馬酔木」に入門。五〇年より馬酔木同人。七〇年「沖」創刊に当たり編集を担当。七一年、第一句集『和紙』で第十回俳人協会賞受賞。〇一年、市川市民文化賞受賞。〇四年、第七句集『光年』を出版。

[受賞のことば]
  この度、小生の第七句集『光年』が詩歌文学館賞に選ばれましたことは光栄の至りと存じます。本書の開巻劈頭の句は、
  光年の中の瞬の身初日燃ゆ
の句で、これによって「光年」という壮大な書名を付けてしまいました。本書の中には、親友能村登四郎の死を悼んだ句が二十数句ありますが、登四郎氏も十二年前にこの賞を受賞していたのでした。『光年』は小生晩年の句集ですが、句々に若さがあると、よく言われます。選考委員の方々も、そこに注目して下さったのかと、忝く存じております。

 
[作品抄出]

光年の中の瞬の身初日燃ゆ

白百合や黄金の蕊のありてこそ

抽きんでてさびしからずや初紅葉

やはらかに生き熱く生き雑煮餅

雪女消え人型のうすあかり

吸へるだけ吸ふ朝の息さくら満つ

坂うねり坂またうねり葛の花

秋日燦神がたばりし齢なり

凍て滝にこもる微かな音聞かな

蒲公英の黄金浄土日は真上

くつきりと撓ふ山みち時鳥

別れ路のいづれ選ばむ夕花野

草餅に草の香つよし小糠雨

銀鼠の雨と見て酌む冷酒なり

いつか来る大き闇待つ十七夜

雲こめて今日満月の薄あかり

古書街の殊に和紙の書日脚のぶ

雛流れ去り紅唇を眼にのこす

紅梅や花芯はただの紅ならず

   五月二十四日、能村登四郎氏逝去
交友七十年遂に君逝く青葉雨

迅雷に裂かれし絆何とせむ

端居せる君の長脛見しことも

われも亦色なきをとこ秋の風

老の身に忙を賜はり秋うらら

満月の凜々たるへ一路かな

冬菊となり玲瓏の光帯び

紺青がつひに白吐く春の波

大いなる青梅と知る踏みごたへ

穭田も金色無限朝日さす

純白の粧ひは何時子白鳥

この若き心を映せ冬鏡

親滝は叫び子滝は呟ける

ふと触れて脈あり秋を生きてをり

ゆらゆらと森の小人の紅葉舟

   二〇〇四年一月二十四日卒寿
九十段登りてうれし春の風

(掲載作選出・廣瀬直人)