森田峠『葛の崖』(2003年7月/本阿弥書店)

著者 森田 峠
タイトル 葛の崖
出版年月/出版社 2003年7月/本阿弥書店 受賞回[年] 19回[2004年]
分野 俳句 分類 作品

[略歴]
  一九二四年十月十六日大阪生れ。一九四四年虚子選「ホトトギス」初入選。峠の号は虚子命名。一九五一年より阿波野青畝の「かつらぎ」に入り、長く編集長を務め、一九九〇年より後継主宰。第三句集『逆瀬川』にて俳人協会賞。『青畝句集「万両」全釈』『三冊子を読む』などあり。宝塚在住。

[受賞のことば]
  大きな賞をいただくことになって驚いています。子規をまねて言うわけではありませんが、わたしは「人間より自然が好き」です。絵画でも人物画より風景画の方が好きです。文章では虚子や志賀直哉の写生文体のものが好きです。好きだから写生句を作り続けています。よく批判されるように上べの写生句はつまらないので深みのある写生句を心がけています。主観には悪質なものが多いので気をつけています。名人芸の阿波野青畝師匠にはかないませんが、わたしなりの写生の道を進んでゆきたいと思っています。

  
[作品抄出]

冬空やキリンは青き草くはへ

風花す鳥羽三陵の一陵に

錫杖に似たる棒あり炭を焼く

淀川を見わたす高さ鴉の巣

筌沈めあり乗込の通りみち

左右より化粧直され祭稚児

木さゝげに鯉のしぶきの届くべし

さねかづら垂れてその名は禊川

宝恵駕籠を迎ふる宮司直立す

啓蟄のてんと虫まだ羽割らず

田はいまだ放たらかしや雪解富士

蝶涼し葛の崖沿ひのぼりゆく

城頭といふべきところ朴の花

太刀魚の全身曇なかりけり

むさゝびの爪のあとらし神の留守

檜扇の紐ありあまる雛かな

筒鳥の遠音近づくことのなし

明日は解く簗に白鷺むらがれる

日向水時刻違はず海女戻る

蝙蝠の群にひるまず水棹さす

饌米にかまきり脚を掛け申す

土間広く積みはじめたる今年米

真東に暗峠翁の忌

猪のぬた場にも来る石叩

川近くして川見えず年忘

月並の短冊掛けて炬燵船

十津川に沿ふ棟長を葺替ふる

開帳や御目はつむりおはすまゝ

蛍とぶ道を今ごろ野良帰り

滝大きければ生まるゝ虹もまた

捕虫網修験の山を駆けめぐり

篝火を消すところまで鵜飼見る

電柱のほか何もなく蕎麦の花

鷹高しこれより近江渡るベく

飛び離れゐる一戸へも亥の子獅子

(掲載作選出・廣瀬直人)