清水径子『雨の樹』(2001年12月/角川書店)

著者 清水径子
タイトル 雨の樹
出版年月/出版社 2001年12月/角川書店 受賞回[年] 17回[2002年]
分野 俳句 分類 作品

[略歴]
  一九一一年東京生まれ。四九年秋元不死男の『氷海』創刊に参加、二十八年間在籍。七九年不死男の喪明けを待って永田耕衣に師事、「琴座」同人。耕衣逝去の翌九八年、同志と同人誌『らん』を結成。句集に『鶸』『哀湖』『夢殻』など。

[受賞のことば]
  此の度の詩歌文学館賞の受賞は私にとりましてまことに晴れがましく、まして日頃より敬愛する三先生の御推挙を頂きました事を知って有難く心より御礼を申上ます。
 顧みますとわが師永田耕衣は齢九十一歳の折、第六回のこの大賞を受賞され、私は本年二月、九十一歳を迎えての受賞に不思議なめぐりあわせを感じました。
 言葉で作る俳句と私の人生的道行きは、結構楽しいのですが、今という時間は常に何かを求めて止みません。これからも「言葉を大切に」を目標に俳句をつづけてゆきたいと思って居ります。

  
[作品抄出]

朝顔はさみしき色をとり出しぬ

菊といふ名の残菊のにひるかな

天さびし熟麦あつく擦りあへば

目に青葉溢れて飯をこぼしたり

変心や黒き日傘の円の中

梟やこころ病まねど山坂がち

半睡は白い椿と重なれり

栗の花咥へめんどり考ふる

おいしい水にわれはなりたや雲の峰

鹿の子ですもう緑蔭に知れわたり

夕顔の前を行つたり来たりする

執拗にぺんぺん草の前に居る

疑はず水の綺麗な村に入る

栗を拾つてゐる三人の間柄

うぐひすや午前七時は夢明り

焼藷のある今生といふところ

鳥帰る人の世は靴すり減らし

たちどまるまでは朧と知らざりき

鬼の色少し足りねど鬼薊

喝采の届かぬところ梅雨茸

落椿見付けられすぐ見捨てられ

青簾たちまち吾れの無くなれり

いまものを言へばみぞれが雪になる

鳥帰る生きるといふは霞むなり

転生の直後水色野菊かな

ただ単に吊るされてゐる夏衣

白夕立われも物質音もてる

日が当りまた晩菊が乱るるよ

アネモネのなりたる事も夜明けまで

新聞にくるまり鮒の夢まぼろし

手に何もなければ四万六千日

囀りのほかテーブルに何もなく

夢に見て紅い椿を折りにゆく

少し懶惰なわれとあぢさゐこの日雨

いまも涼しい小学校の樅の木よ

(掲載作選出・藤田湘子)