藤田湘子『神楽』(1999年10月/朝日新聞社)

著者 藤田湘子
タイトル 神楽
出版年月/出版社 1999年10月/朝日新聞社 受賞回[年] 15回[2000年]
分野 俳句 分類 作品

[略歴]
  一九二六年一月一一日神奈川生まれ。四三年より水原秋櫻子主宰「馬酔木」会員。同誌同人、編集長を経て六八年退会。六四年「鷹」を創刊、主宰。句集『途上』『白面』『一個』他。著作『水原秋櫻子』『秋櫻子の秀句』『俳句の方法』『俳句好日』『20週俳句入門』など多数。蛇笏賞選考委員。日経俳壇選者。

[受賞のことば]
  自分の進みたい道を、なるべく曲らぬようにゆっくり行きたい。還暦を迎えたころから、そんな思いを持ってやってきました。進みたい道がすこしずつはっきりしてきたようですけれど、まだ志半ば、といった思いのところにお知らせをいただき、いまもなお途惑っています。しかし先のことはわかりません。有難く賞をおし戴いて、またゆっくり行こうと思います。選考委員の方々をはじめ、ご関係の皆様に心より御礼を申しあげます。

  
[作品抄出]

霧氷林あらたまの日を捧げたり

   軽井沢
尾長翔ぶ波郷の泉訪ふわれに

大根の燦たるものを摺りおろ

   奈良
大佛殿見ゆる野遊び終りけり

ゆくゆくはわが名も消えて春の暮

殺生のきはの高音を神楽笛

千金の夜とて田螺も鳴けるなり

朴の葉を一枚置けり冷し酒

干蒲団箱根の谷に叩きをり

もろびとの鼻大寒となりにけり

   金沢
よき門を加賀に眺めて春の暮

   佐久
鷹の巣や谷の底まで佐久の晴

   熊本
こころまだ雲中にある夏炉かな

終戦忌頭が禿げてしまひけり

葛飾や一弟子われに雁わたる

主峰まだ暮れず寒柝第一打

貝寄風や志士のおもかげ草田男に

花冷のなにゆゑとなき昼の酒

学ぶ灯と雀の卵おなじ闇

   洛北より近江へ
神楽太鼓てことこ打てば山涼し

冷さうめんものがなしくも長々し

日に飛んで蜂が一番秋らしき

拱手して野守のごとし居待月

   安曇野
あかつきに雪降りし山神還る

   安曇野
天近き田も水足らひほととぎす

   京都  奈良(二句)
天平も今も藻の花招提寺

あめんぼと雨とあめんぼと雨と

死蟬をときをり落し蟬しぐれ

   高山
ひとつぶの菊のつぼみも飛驒料理

団栗を拾ひ山へは褒言葉

暦売ひつそりと食了へにけり

天山の夕空も見ず鷹老いぬ

春の鹿幻を見て立ちにけり

小春日や人を語りてやや篤く

湯婆ゆたんぽの暁のひとはだめでたけれ

(掲載作選出・深見けん二)